虫垂炎(盲腸炎)

 盲腸炎というと知らない人がいないくらいに多い病気で、広く知らられいますすが、医学的には、虫垂炎と呼ぶのが正しい名前です。

 急性虫垂炎は高齢者でも起こります。症状は腹痛ですが、軽度のことが多く、また穿孔して局所性腹膜炎を併発しても、必ずしも重篤な症状を示さないこともあり、白血球の増加は少ないものです。

 この病気は一口にいえば、虫垂から起こる炎症による病気です。

 虫垂の位置と働き
 虫垂は、小腸(回腸)から大腸(結腸)に移るところについていて、その名前のように、いも虫のような形をしています。

 回腸の末端は結腸に移行しますが、この結腸の起始部の下方にふくらんでいる部分を盲腸と呼び、虫垂はこの盲腸の付属器ともいうべきもので、からだの表面でいうと腹部の右下の部分にあたるので、虫垂炎の患者は右下腹部の痛みを訴えるわけです。

 虫垂は盲腸と通じていて、腸の一部ともみなされていますが、多くの学者はこれは退行器官で特殊な機能を持っていないと考えています。

 一部には、消化機能や腸の運動に関係があるという説もありますが、手術によって虫垂を除去しても、人間のからだにとって全く影響は認められません。

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 虫垂炎の型と全身への影響
 虫垂炎はもともと急性の病気で、患者の大部分は急性虫垂炎ですが、医学的には、カタル性虫垂炎、蜂窩織炎性虫垂炎、えそ性虫垂炎などに分類されます。

 しかし、これらは別々の独立した病型ではなく、発病からの時間や病気の進み方などによって違った形を示す病気の一つの段階です。このほか、わずかですが、慢性虫垂炎と呼ばれるものもあります。

 したがって虫垂炎は、それ自体直接生命の危険を招くものではありませんが、病気がしだいに周囲に広がると、盲腸や回腸の炎症を引き起こします。

 しかし虫垂炎でいちばん問題になるのは、腹膜炎です。特に虫垂に穴が開き、いわゆる穿孔性腹膜炎を起こすと、全身状態が悪くなって生命の危険が大きくなります。

 虫垂炎の罹患傾向と誘因
 虫垂炎は若い人に多くみられ、10~30歳の人が約3分の2を占めています。男性と女性とでは、昔から男性の方が女性より多いといわて来ましたが、それほど差はありません。

 また農村に少なく、都会人、特に勤め人や学生になどに多いことが認められているようです。季節との関係では、秋や冬に少なく、春および夏に多い傾向がみられます。

 虫垂炎の発病に食物の差が関係し、肉食者に多く菜食者に少ないといわれることもありましたが、これもはっきりした差はないようです。

 また、ブドウ、スイカ、サクランボなどの種がしばしば問題にされますが、これらの異物によって発病することは否定できませんが、実際には極めて少ないようです。

 同じ家族のうちで親子、兄弟が次々と発病することがありますが、これは遺伝と考えるより生活状態や食物の関係、あるいは、解剖学的な虫垂の形態の類似によるものと考えられています。

 このほかにからだの激動や精神的疲労も、虫垂炎の発病に関係があるといわれています。さらに暴飲暴食ののちに発病するものが多いことも昔からいわれています。

 虫垂炎の直接の原因については、たくさんの学説が唱えられています。そのいずれの説ももっともな説ですが、すべての場合をじゅうぶんに説明するには足りません。

 しかし虫垂炎は細菌によっておこされた炎症であることは事実で、その細菌としては大腸菌がいちばん多く、そのほかにもいろいろの細菌が発見されています。

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 虫垂炎の症状と経過
 大部分の虫垂炎は突然発病するので前駆症状が明らかでない例が多いのですが、なかには食欲不振、あくび、軽い悪心、全身不快感、下腹部膨満感、放屁、便秘、腹痛、または下痢などの前駆症状を示すものがあります。

 腹痛(自発性)
 すべての虫垂炎が腹痛から始まるといってもいいくらい腹痛は初期の必発症状です。その痛みの程度は人によっていろいろ違いますが、腹痛の部位には、虫垂がある右下腹部が発病のはじめから痛い場合と、はじめはほかの部分が痛くなる場合があります。

 後者の場合は胃部(上腹部)、全腹部、臍(へそ)部、下腹部などに軽い痛みを感じ、時間がたつにつれて腹痛は右下腹部に限定されてきます。ごくまれには腰痛で始まる例もあるようですが、これは虫垂が後方にあったり、癒着があったりする場合です。

 時間がたち病気が進行するにつれて痛みの程度は増してきます。たとえばはじめ胃部の軽い鈍痛であったものが、やがて右下腹部に痛みが固定し、しかも時間がたつにつれてその痛みが強くなってくるなどは、定型的な虫垂炎です。

 右下腹部以外の痛みで始まる例の大部分は、通常発病後6時間以内に右下腹部痛に限局されます。また、なかには、発病当初からかなり激しい右下腹部痛で始まる例もあります。

 圧痛
 虫垂炎には、自発痛があるとともに、右下腹部に限局した圧痛が必ず認められます。この圧痛は、圧力によって虫垂から直接起こる痛みであるので、医師が診断を行う場合にはきわめて重要なものです。昔から多くの圧痛点が唱えられ、診断に役立ってきています。

 悪心・嘔吐
 自発腹痛と前後して発病初期から悪心、あるいは、嘔吐があらわれます。その程度はさまざまですが半数近くの患者に起こります。

 この初期のものは反射的に起こるもので、やがては止まりますが、虫垂炎から腹膜炎に進行すると、悪心や嘔吐は再び頻回に起こります。

 発熱
 全身症状としては体温が上昇します。37~38度のものが最も多く、37度以下のものも3分の1くらいの患者には認められますが、40度を超えるような高熱はほとんどありません。

 すなわち、虫垂炎の際の発熱はごく軽度上昇にすぎませんが、腹膜炎を発生すれば38度以上の発熱は当然起こります。

 呼吸と脈拍の増加
 体温の上昇とともに呼吸や脈拍の数が増加します。虫垂炎では呼吸にも脈拍にもたいして影響はないのですが、腹膜炎を起こせば両者とも著しく増加します。

 便通の異常
 虫垂炎の患者は、むしろ便秘や正常のものが多く、下痢を示すものは10%くらいしか有りません、発病後は便秘に傾きます。

 白血球数増加
 虫垂炎では比較的早期から白血球が増え、1万(血液1立方㍉中)を超えるものが少なくありません。腹痛を起こすとさらに2万や3万になる例もあります。

 虫垂炎の進み方
 急性虫垂炎に対して内科的治療を行った場合、40%は5日以内に解熱して治癒するといわれており、これは病気の型としてはカタル性虫垂炎です。

 このように一面では治癒傾向がある病気といえますが、他方、炎症がどんどん進行すると、ついには穿孔して腹膜炎を起こし、危険な状態になります。

 なかには、えそ性変化(腐る)が早く、発病3時間後にはすでに穿孔を超す例もあります。このようなことから早期手術の必要が強調されるわけです。

 幸いにして内科的治療で治癒した場合でも再発の問題があります。最初に軽症のものほど再発しやすいといわれています。

 再発の頻度は正確に調べることは困難で、少ないものは21%から、多いものは75%という報告もありますが、最近のように早期手術を受けるものが大部分になると、再発例はきわめて少なくなっています。

 起こりやすい合併症
 虫垂の炎症が周囲に広がれば、当然腹膜炎を起こします。手術の際に病変が虫垂に限局しているにもかかわらず、腹腔内にすでに薄い滲出液を認めることがしばしばあります。

 しかし一番重要な合併症は穿孔性腹膜炎で、ひどい例では腹腔全体に膿がたまっていて、きわめて危険な状態となります。

 穿孔を起こすまでの時間は、発病3時間くらいという例もあり、一定していません。穿孔が起こると腹痛は急激にはげしくなり、患者によってはあおむけに寝ていられずに、横向きになり、エビのように曲げています。穿孔を超す誘因として、昔から下剤や浣腸があげられています。

 腹膜炎が限局された部分だけに起こると膿瘍が形成されます。その部位にはいろいろあり、盲腸周囲、骨盤内、横隔膜下などがあります。

 膿瘍形成は広範囲な腹膜炎ほど重篤ではありませんが、発熱、腹痛、全身障害などの症状をあらわします。さらに、まれには細菌が門脈の中に入って、肝膿瘍を起こすことがあります。